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談話室  第18話 錦絵の江戸
2003/10/05

 9月23日に原宿の 『 浮世絵 太田記念美術館 』 を訪問した。歌川広重(安藤広重)の三十歳台の名品、錦絵 『 東都名所 』 などを見てきた。われわれの学校時代での美術教育は西洋芸術が中心で、日本の伝統絵画となるとどうも縁が薄かったのだが、年をとるとともに浮世絵・錦絵などわが国の伝統芸術のすばらしさに目覚めてくる。やはりそれらの高い芸術性が日本人たるわれわれを魅了するのだ。しかし浮世絵・錦絵に魅了されるのは日本人だけではない。明治以降日本に入ってきた西洋人もこれらのすばらしさに魅了され、その結果多くの浮世絵などが海外に流出した。
 江戸の庶民の生活を描いて活き活きとした姿を伝えてくれる、すばらしい名品の数々である。
 この 『 太田記念美術館 』 はわが国の素晴らしい伝統絵画・浮世絵を直に眺めることができる貴重な場である。ぜひ皆さんもご覧になることをおすすめします。

水の都 江戸

 『 太田記念美術館 』 の売店で、歌川広重の晩年の作・『 江戸名所百景 』 118枚+二代目広重1枚を収録した本、『 名所江戸百景 新・今昔対照付き 』 を購入した。家に帰ってこれを眺めて、『 ああ、江戸は 水の都だったんだ 』 と思った。
 全119枚の錦絵のうち、実に92枚に水面が描かれている。
 江戸の名所絵には、川が、堀が、池が、海が描かれている。滝までもある。江戸市中にはずいぶんと水面を風景に配した名所があったのだ。水面の出現率は、実に77%に達する。
 歌川広重は、彼自身が川、堀、池、海を配した風景に愛着を持っていたのかも知れない。しかし彼の代表作である 『 東海道五十三次 』 では、水面の出現率は53% ( 55枚中29枚 ) である。この数字自身は決して低いものではなく、彼の、水面のある風景に対する愛着を偲ばせるものだが、『 名所江戸百景 』 での水面出現率はそれをはるかに凌ぐ。これは江戸が水の都であったからこそと考えられる。
 参考に、『 名所江戸百景 』 での水面の出現を拾うと、
 水面の種類・詳細説明出現数内訳
 川52 
 隅田川 = 大川15
 日本橋川
 神田川、荒川各 3
 石神井川、目黒川、赤羽川(渋谷川)、小名木川、江戸川各 2
 池16 
 不忍池、溜池各 3
 海 = 江戸湾 =15 
 堀 = 外堀、八丁堀、深川の堀など = 
 滝 = 王子不動の滝、千代が池の滝 = 
となる。
(千代が池では池と滝とにカウントしたので、水面の種類を合計すると93になるが出現の有無の枚数でいうと92)
 水面の出現回数では、大川(=隅田川) が他を圧して多い。多くの江戸の人々にとって、隅田川 こそ『 江戸の町に潤いを与える川 』 の代表だったのだろう。
 もうひとつ、特筆すべきものは、江戸湾の海だ。昔から海に面した町は数々あろうが、穏やかな江戸湾に面した江戸の町こそ、わが国を代表する、『 海に親しむ町 』であったと思う。
 『 霞ヶ関 』 の遠景に江戸湾が描かれているのには驚いた。

富士山と筑波嶺をのぞむ町 江戸

  全119枚の錦絵のうち、34枚に遠景の山が描かれている。
 愛宕山、上野の山や、富士講で築かれた目黒富士など都内の山・崖の風景も数えれば、山の景色はもっと増える。
 全119枚の中で、富士山は19枚に、筑波山は10枚に 描かれている。そのほかの遠景の山5枚は、房総の山、秩父あるいは赤城山かと思われる山だ。
 京都なら、東の比叡・比良、西の愛宕・嵐山、そして北山・醍醐の山があり、大阪なら生駒・金剛・六甲・和泉の山があるから、山のある都市風景は珍しいわけではないが、「 平野のほかに、なにもなし 」、と思われがちな江戸・東京の町でもこんなに山のある風景が身近なものだとは、特に西日本にお住まいの方には想像しにくいだろう。
 建物が高くなって、筑波山こそ見づらくなったが、富士山は今でも東京とその近郊のいろんな場所から見える。もっとも、東京から富士山が見えるのは、ほとんどは秋〜冬のシーズンに限られるが、今年の8月、私は台風一過の西の空に、千葉県柏市の自宅から富士山を見た。茨城県牛久市のあたりを走る常磐線の車窓からでも、夕映えの富士が見えることはよくある。
 江戸の町には目黒、品川などいろんなところに 『 富士山 』 が築かれたが、これもご本尊の富士山そのものが見えるからこそのことだろう。

大商店の町 江戸

 全119枚の錦絵のうち、8枚に大商店などが描かれている。
 あたりまえのことだが、江戸には大商店がたくさんあった。このシリーズで広重が描いた大店(おおだな)は、日本橋の越後屋(今の三越本店)・白木屋(のち日本橋東急百貨店→廃業)、上野周辺の松坂屋江戸店(本店は名古屋市)・伊勢屋、大伝馬町の大丸江戸店(本店は当時は京都。現在は大阪・船場が本社)や木綿問屋街などである。そのほか浅草・猿若町の芝居小屋街、兜町付近の蔵が建ち並ぶ風景も描いている。大商店の数に入れなかったが、新吉原の遊郭の風景もある。

雨も描いた 広重

 全119枚の錦絵のうち、3枚が雨の風景。
 雨の風景を描くというのは、乏しい私の知識の範囲では、西洋絵画では皆無に近いのではないかと思う。『 江戸名所百景 』 で広重が3枚の雨の風景を描いたのは、雨が多い日本ならではのことかも知れない。先に挙げた水面のある風景とともに、水に恵まれたわが国を象徴するものではないだろうか。『 東海道五十三次 』 では55枚中3枚の雨の風景がある。
 このほか 『 江戸名所百景 』 では雪の風景が6枚ある。



歌川広重( 安藤広重 )



『 浮世絵 太田記念美術館 』    東京都渋谷区神宮前1−10−10 http://www.ukiyoe-ota-muse.jp
『 名所江戸百景 新・今昔対照 』  浮世絵 太田記念美術館編集・発行、H15/9/1
『 東海道 昔と今 改訂版 』      徳力富吉郎著、保育社 S37初版、S48改訂 カラーブックス 8
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FURUICHI, Makoto