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談話室  第23話 「おお地震」か「だい地震」か(再)
       そして、 地震雷火事おやじ
2008/05/24

四川大地震
 5月24日、中国政府は確認された死者数が6万560人、行方不明者が2万6221人に達したと発表した。痛ましい大災害である。
 報道各局はこの地震を、「 四川大地震 ( しせん・おおじしん ) 」 として報道している。「 大地震 」 を 「 おおじしん 」 と読むのは各局共通で、第20話 大地震は 「 おお地震 」 か 「 だい地震 」 か に書いたとおりである。
 この 「 大地震=おおじしん 」 の読みについて、ネット上ではいろいろ異論がある。その代表は、

  1. 昔は大地震は 「 だいじしん 」 と読んでいた。最近これを 「 おおじしん」 と読んでいるのはおかしい。
  2. 「 地震=じしん 」は音読みだから、これに 「 大 」 を付けた場合は 「 だいじしん 」 が正しく、「 おおじしん 」 は間違っている。
 しかし上の 「 異論 」 は間違っているだろう。

 古くは、「 地震 」 を意味する やまとことば は 「 なゐ 」 だった。
 日本書紀岩波文庫版を見ると、允恭紀5年の段に、原文:「 秋七月丙子朔己丑地震。」 とあり、漢字かな交じりでは 「 地震る 」、読みは 「 なゐふる 」 とある。広辞苑には 「 ない ( ナヰ ) 」 の見出し語があり、『 「 な 」 は 「 大地 」 の意、「 い ( ヰ ) 」 は 「 居るところ 」 の意で、転じて 「 地震 」 の意に。』 とある。
武烈天皇即位前紀にある歌には万葉仮名で、原文:「 那為我興拠摩 」 とある歌を 「 なゐがよりこば 」 と読み、漢字かな交じり文では、「 地 ( なゐ ) が震 ( よ ) り来 ( こ ) ば 」 とある。
 日本書紀が編まれた8世紀初めごろは、「 なゐふ ( る ) 」 というやまとことばに 「 地震 」 の漢字を当てたわけで、その意味で 「 地・震 」 の訓読みは 「 なゐ・ふ ( る ) 」 または縮めて 「 なゐ 」 だったと言ってよい。

 しかし、やがて 「 なゐ 」、「 なゐふる 」 というやまとことばは 「 地震=じしん 」 という言葉に押されて消えていく。鴨長明・方丈記には、「 おびただしく大なゐふること 」 という文もあれば、「 恐れの中に恐るべかりけるは、只地震なり 」 もある。後者は 「 ただ・じしん・なり 」 ではないたろうか。

 時代が下がって、元禄時代・井原西鶴の 「 西鶴織留 」 には、「 大名公家がたには 地震雷の間 とて番匠にたくませ、赤銅瓦の三階作り・・・ 」 とある。これは 「 じしん・かみなり・の・ま 」 と読むしかなかろう。広辞苑にも 「 じしん 」 の見出し内に 「 地震雷の間 」 ということばがある。江戸時代くらいには、大名などの間でこのような災害耐性がある居室を作るのが流行したのではないか。

 このように江戸時代には 「 地震 」は音も訓も 「 じしん 」、という世情になり、「 地震 」 の前に 「 大 」の字をつけても、( 江戸時代までのころは ) 「 おおじしん 」 と読んでいた、というのが正しいと思う。そういう例は、大火事、大舞台、大文字、大仰 ( おおぎょう )、大袈裟、大太鼓、・・・などなどいっぱいある、というのが 第20話 大地震は 「 おお地震 」 か 「 だい地震 」 か に書いたことである。

 だから先の異論は、
  1. 昔は大地震を 「 おおじしん 」 と読むとは知らなかった。「 だいじしん 」 とばかり思っていた。
  2. 音読み語に 「 大 」を付けたら 「 だい 」 と読む、という日本語文法は 「 大地震 」 の例など当てはまらない言葉が少なからずある。( そういえば、音読み語に 「 大 」 を付けて、澄んだ 「 たい 」 と読むませる言葉も少なからずあったっけ )
と言うのが正しい。
新語を作るなら先ず文法、かも知れないが、日本語の伝統を重んじるなら先ず言葉があるわけで、文法はそれを説明できるように作らなければならない。

ところで四川大地震
 ところで四川大地震、中国の地震である。中国では、四川震、四川震災 (1)、、文川大地震 (2) などと呼ばれている。これも 「 しせん・おおじしん 」 というのは正しいのだろうか? あまりにも日本的すぎると思う。中国式を取り入れて、「 四川大震災 ( しせん・だいしんさい ) 」 くらいが適当ではないだろうか。
 日本の地震を命名する気象庁は、「 5月12日の中国四川省の地震 」 という言葉を使う。こちらはまたお堅い。
  中国式表記では  (1) 「 災 」 を異体字とした。  (2)は、


地震雷火事おやじ
 「 地震 」 ということばがわが国でいつ頃から使われるようになったかを調べているうちに、「 地震雷火事おやじ 」 ( おやじ は親父とも親爺とも ) という言葉に行き当たった。どのHPでも、「 昔から・・・・と言われているが 」 とあるが、いつごろから言われているか、はっきり書いたページはない。おそらく江戸時代ごろ、元禄ごろではないかと想像する。

 それはそれで良いのだが、いくつかのページに、
本来は、地震・雷・火事・おおやまじ ( 大山嵐=台風のこと ) だった、
とある。 本当だろうか。

 先ず第一の疑問。恐ろしい、地震・雷・火事・台風 と言葉を並べてみて、何の意味があるのか?

 この言葉、「 地震雷火事おやじ 」 は、「 ウチのオヤジは恐ろしいんだゾ 」 ということを言いたくて言った言葉のはずだ。力点は最初でも、2番目でも、3番目でもなく、最後の 「 オヤジ 」 にあるはず。
 地震・雷・火事ほどではないにしても、ウチのオヤジは恐いんだゾ、と、最後の一節を言いたくて使われた言葉だと思う。
 ・・・だから、オマエ達と一緒に遊びに行けないんだよ・・・などと。

 誰にとっても恐ろしいことに異論がない、地震・雷・火事・台風 と言葉を並べてみても何の意味もない。最後がオヤジであって、「 ウチのオヤジは ( 自分にとって ) 特別に恐いオヤジだ 」 からこそ意味があり、また、長く言い伝えられる言葉になったと思う。

 第二の疑問。「おおやまじ(大山嵐=台風のこと)」ということばが、私が見たどんな辞書にもない。
「 なゐ 」 さえ載っていた広辞苑にも、新潮社古語辞典、それにネット上の辞書にもない。

 本来は、地震・雷・火事・おおやまじ(大山嵐=台風のこと)だった

 というのは、根拠がない最近の俗説ではないかと思う。

参考に、YAHOO でのネット検索の結果。  
おおやまじ
すべての辞書検索で該当する情報は見つかりませんでした。
キーワード候補で再検索
おおあぐら , オオアタマ , オオアタリ , やむし

大山嵐
すべての辞書検索で該当する情報は見つかりませんでした。
キーワード候補で再検索
山嵐 , 大麻 , 大薊 , 大足 , 大 , 代

山嵐
国語辞書との一致 (1〜1件目 / 1件) 検索辞書:大辞泉 提供:JapanKnowledge
やま‐あらし【山嵐】
1 山から吹いてくる嵐。やまおろし。2 柔道の手技の一。相手の同じ側の襟と袖を握って釣り込み、前隅に浮かして崩しながら、出足のくるぶし上部にあてた足で払い上げて倒す。

地震雷火事おやじ
国語辞書との一致 (1〜1件目 / 1件) 検索辞書:大辞林 提供:三省堂
地震雷火事親父
恐ろしいものを順にあげた語。

辞書切り替え: 大辞泉 | 大辞林

地震(じしん)雷(かみなり)火事(かじ)親父(おやじ)
「じしんかみなりかじおやじ」を大辞泉でも検索する
恐ろしいものを順にあげた語。
大辞林 提供:三省堂 ]

辞書切り替え: 大辞泉 | 大辞林
地震(じしん)雷(かみなり)火事親父(おやじ)
「じしんかみなりかじおやじ」を大辞林でも検索する
世間でたいへん恐ろしいとされているものを、その順に並べていう言葉。
[ 大辞泉 提供:JapanKnowledge ]




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FURUICHI, Makoto