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音楽室第17話 オペラ魔笛 p-3


          1.日経 H20.8.20 に掲載された、天沼裕子氏の記事        p-1
          2.小さなオペラ・子供向けのオペラ
          3.テレビで見る、華美壮麗なオペラ                             p-2
          4.映画になったオペラ「魔笛」                                    p-3
          5.ザルツブルク祝祭大劇場でのオペラ「魔笛」                p-4


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4.映画になったオペラ 「 魔笛 」
 世界で一番頻繁に上演されるオペラはモーツァルトの 「 魔笛 」 だそうだ。昨年 (2007年)、イギリスで 「 魔笛 」 が映画化され、日本でも上演され、好評を博したようだ。魔笛は1975年にもスウェーデンで映画化されたがこれとは違う。昨年のイギリスでの映画化は、監督:ケネス・ブラナー、ザラストロ:ルネ・パーペ、夜の女王:リューボフ・ペトロヴァ などで、すばらしい傑作だった。

 この作品では、第一次世界大戦・・・『 のような 』・・・戦場を舞台にしている。『 のような 』 というのは、第一次世界大戦で初めて登場した初期型戦車があって、歩兵の主力の武器は木の台が付いたライフル銃、というような武装の軍隊が登場するわけで、戦っているのはイギリス軍でもドイツ軍でもなく、夜の女王軍とザラストロ軍であるわけだ。夜の女王の登場はその進撃する戦車上に立った姿で、たいへんに格好良い。

 この作品を傑作という所以は、
(1) まず難解な火の試練、水の試練、をたいへん明快に示しているところだ。普通オペラでは、主人公の火の試練、水の試練、を分かり易くは示すことができないでいる。しかしこのオペラではそれらの試練を明快に示している。第一次世界大戦のような戦場を舞台としたことが大きく貢献している。 ・・・これから見ようとする人のために、これ以上詳しくは書かない・・・
 原作にはそのほか大地の試練、空気の試練、ということばも出てくるのだが、通常オペラではこれらは歌詞の中に出てくるにすぎないもので、演技表現されたものを見たことがない。火の試練だけが演技表現されるばかりだ。しかしこの映画では、大地の試練 ( ? )、空気の試練 ( ? ) も感じられ、・・・試練ではなく 「 変化 」 を私は感じたのだが・・・これは歌詞に出てくる大地、空気、の試練を意識しているのか? と想像力をかき立てられる。
 ストーリーのわかりやすさは、幕切れ間近に夜の女王らがザラストロを不意打ちしようとする場面にもある。通常オペラでは、夜の女王らは雷鳴や水の音を聞いて、・・・あまりにもあっけなく・・・「 撃ち破られた 」 と宣して退場していくのだが、映画では、ザラストロの宮殿の外壁をよじ登った夜の女王は、窓越しにタミーノとパミーナの結婚式での幸せそうな姿とザラストロらの祝福する姿を見て、「 復讐は成らない! 」 と絶望して自ら命を絶つストーリーになる。ずり落ちかける夜の女王にザラストロは駆け寄って、手を差し伸べて救おうとするが、夜の女王は救いの手をふりほどいて、悲しげに自ら闇の底に身を投じて行くのだ。
 このように、突き詰めて考えれば難解な原作を、この映画では現代人にも分かり易く見られるようにストーリーを工夫している。

(2) 映画化のメリットは、舞台セットでは見せられない、カメラワークを駆使しての映像作りだ。CGも使われている。ダイナミックな映像になっている。

(3) 歌は、ザラストロのルネ・パーペも、夜の女王のリューボフ・ペトロヴァも素晴らしい。特に夜の女王が娘・パミーナを突き放すアリアは鬼気迫るほどの迫力満点で、圧巻だ。
 舞台芸術ではできない、歌い直しの編集などは当然行われていると思うが、どの歌も完璧な出来上がりになっている。
 歌で 「 ちょっと・・・ 」 と思ったのは、パパゲーノ役。声の質が軽すぎ、「 パパパ・・ 」 も滑るような感じ。そのほかは子役も含めて十分満足できた。

(4) もうひとつ、通常のオペラの字幕と違ってこの映画の字幕はたいへん密度が濃く、この点でもストーリーが分かり易くなっている。もちろん状況設定に合わせたセリフの変更も行われているとは思うが。

(5) ネットでこの映画の評価を調べてみると、「 ドイツ語だったらもっと良かった 」 というものがある。この映画は英語版だ。しかしだからといって、モーツァルトの音楽性が低くなるものでは全くない。私には・・・ドイツ語よりは・・・歌詞が分かり易く、たいへん良い、と思った。
 主人公が試練にうち勝ったあと、周囲の人々は 「 Rejoiced ! 」 と歓喜の声を上げる。イギリスに帰化したヘンデルの作品で 「 司祭ザドク 」 という頌歌があり、イギリス国王の戴冠式で必ず歌われるほか、サッカーの 「 UEFAチャンピオンズリーグ賛歌 」 にも取り入れられているが、この歌でも 「 Rejoiced ! 」 はなじみのことば。
 もともとオペラ 「 魔笛 」 はモーツァルトが、王でも貴族でもなく、民衆に聞いてもらおうと作ったもの。そして欧米各国では、それぞれの母国語に翻訳して上演されることが多いオペラだ。歌詞がドイツ語から英語に変わって価値が下がるような音楽ではない。

・・・そういう意味では、先の天沼裕子氏の日本での試みも、語感を大切にした翻訳を得られれば、セリフだけでなく歌も日本語化するほうが日本の子ども達のためになると思う。

私はこの映画を、8月24日(日)未明 4:50からのWOWOWで見た。WOWOWでは9月22日(月)午前7:30からでも放送することになっている。関心のある方は見て下さい。
またDVDも発売されているようだ。

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FURUICHI, Makoto 2008/08/29